ブティをはじめたきっかけ
今から10年以上前、子供が8ヶ月のときに、フランス人の夫の家族の家、南仏の小さな村に移住して暮らし始めました。
たまたま、私の住んでいる村の博物館と村の文化アソシエーションが主催する、南仏伝統手芸ブティのワークショップを、観光案内所でもらったイベントカレンダーのチラシの中に見つけて、ブティとは何かすら知らないままとにかく体験することを決意しました。
小さい頃から手芸や手仕事が好きでしたが、何か手に職となるようなものを、無意識に探していたのかもしれません。
また、周りは葡萄畑だけの田舎で周辺に住んでいる人も少なく近所付き合いゼロ、ベビーカーを押して周囲を1時間散歩しても誰にも出会わない、お店も公園も何もない、人との交流がほぼない暮らしだったので、元来社交的な性格でしたが、家族以外の誰とも話すこともない田舎生活に、小さな子をかかえての海外移住、話し相手もおらず、ほぼ移住鬱になっていたような気がします。種類は問わず、とにかく人間とかかわれる場を強く求めていたのだと思います。
閉鎖的な田舎の小さな村でしたが、2回のワークショップが終わった時、作品はまだ完成していなかったので、勇気をだして、「この続きはどこに行けば教えてもらえるか、一緒にできるか」、と主催者に尋ねたところ、村のアソシエーションの活動場所を教えてもらい、週に1度の活動に参加できることになりました。
その時完成した初めての作品は、携帯電話が入るくらいのケースでまだ不慣れで素晴らしい出来ではなかったと思いますが、人生初ブティでとても嬉しかったので、日本の母にプレゼントしました。
南仏の小さな村での初めての社会との繋がり、孤独から一歩抜けだした気分で、子供は家族に預かってもらい、無理な時は絵本や遊び道具、お菓子などを持って一緒に連れて行ったりして、毎週通い始めました。言葉もたどたどしい外国人が村人に受け入れてもらえたことが、とても嬉しかったのを覚えています。それが今も継続して参加しているブティクラブです。
今年でブティを初めて10年目になります。今でもクラブのメンバーはライフワークとしてブティに携わるようになった私の活動を暖かく見守ってくださっていて、この偶然の出会いには、とても感謝しています。
暮らしの中で、ブティがあることで変わったこと
ブティに出会ったことが、社会とつながるきっかけとなり、精神的に病まずに済んだと思います。
フランスに来た当初は、子育てにいっぱいいっぱいの生活だったので、夜、皆が寝静まった後のひと時、無心になって手を動かすことで、心身ともにリラックスして、疲れた頭をニュートラルに保てるようになったと思います。
小さなブティの道具は持ち運べるので、昔から、外出時は必ずカバンの中に忍ばせて、隙間時間をみつけては、どこでもチクチクしています。
子供のお迎えの待ち時間の駐車場の車の中で、通院のクリニックの待合室で、誰かの買い物のお付き合いの時の待ち時間、どこでもリラックスタイムに早替わりし、まとまった時間はとれませんが、完成にゆっくり一歩近づきます。
おかげで、ブティさえあれば、どんなに待たされても、イライラすることがなくなりました。
また、フランスではよく1週間や2週間の長期、自然の中でのヴァカンス旅行に出かけるので(夏休みは1ヶ月とか2ヶ月とか、、、)、その時は、家での雑事がないので、一番制作がはかどる時です。家族が海や森の遊びを満喫して遊んでいる間、私はビーチでチクチク、山の家でチクチク、と、優雅にいつもより長い時間、針仕事を楽しみます。
それなので、長期旅行前は荷物の準備も大変ですが、楽しいブティタイムのために、現地ですぐにステッチをスタートできるための図案写しなどの下準備も怠りません。
ブティとは?本場フランスで思うこと、感じること、私の制作スタイルやこだわり
フランスでユネスコの無形文化遺産にも指定され、日本では優雅で華やかな芸術作品のイメージが強いかもしれません。
リアルな南仏のおばあちゃまたちに囲まれながらブティクラブに参加して10年になりますが、地元では、皆、肩の力を抜いて、おおらかに、自由に、ブティを生活の中に取り入れて楽しんでいるように感じます。
主に贈り物として作られることが多いブティ、村で赤ちゃんが生まれると、スタイやベビーシューズ、結婚式にはリングピロー、家族への贈り物、お誕生日プレゼントに、お世話になった人へのお礼に、、、など、
マダムたちは年中忙しく、かたつむりのようにゆっくりな私とちがって、とにかく早くたくさん制作しています。
スピード感も必要なので、それほど、針目の細かさは気にしないし、多少まがっていたって、手仕事のあたたかい味となるのです。多少、不器用さんでも、皆でフォローしあって助け合うので問題なしです。
とにかく、週に1度、村で起こった出来事をおしゃべりしながらチクチク、賑やかに笑顔で溢れる時間を仲間と共に元気に過ごすことが、生き甲斐になっているようです。
南仏では、ブティに特化した大きな展示会もあり、素晴らしい芸術作品を眼にする機会もあり、もちろんそれは誰もが真似をできない圧倒的な感動が確かにあります。
でも、実際の田舎のブティ生活は、そんなゆるりとした環境で長くやっていますので、確かな技術と芸術性に優れ、見る人に感動を与え圧倒するような立派なブティを作り上げる、ということよりも、日々の暮らしの中での愉しみとして、自分自身が満足し、身近な人に愛される作品を作れるか、ということのほうに興味が湧きます。
また手仕事が好きなフランス在住の日本の方に、ブティの楽しみを知ってもらう機会を提供することにも取り組んでいます。娘の学校のママ友だったり、駐在でこられている手芸好きの主婦の方だったり。
私の周りのブティ仲間には、子育てや日頃の生活での忙しい合間に、いかに効率的にステッチをはじめられるか、自分自身もそうですが、年を重ねると目が悪くなったり体の不調が出てきたりもするので、くつろいだリラックスできる時間をもてるか、ということに考慮してお手伝いできると、ブティをスタートするハードルがさがるかなと思っています。
そのような層の方向けには、材料を探したり転写する時間を省いて、すぐステッチから楽しめるキットの準備代行するのも、地域のアソシエーションメンバーの高齢化が進んで将来が心配されているフランスのブティ業界において、救世主となるか、世代や国籍を超えて、もっと幅広い世代にブティに触れてもらいたいという願いから取り組んでいます。
今後の展望、作家としての想いなど、伝えたいこと
以前、日本で刺繍アートフェスティバルに参加して、お越しのたくさんの方と、会場でお話させていただきましたが、まだまだブティをご存知でない方がたくさんいらっしゃるのを実感しました。
南仏では地域のアソシエーションもたくさんありますが、参加者の高齢化で将来の継続的な活動が心配されています。伝統重視の作品だけでは、新たな世代の層が増えないので、新しい風を吹き込むことによって、これからもブティ界を盛り上げていこうという動きも感じます。
私自身は、南仏伝統のデザインだけにとらわれず、日本文化や和のテイストを取り入れ日本と南フランスの文化を融合させた図案の提案をしており、また、自分の好きなテイストで、布や糸の新しい色彩、コットン以外の素材、写実的なデザインなど、新たな感覚を進んで取り入れています。
現地では、それが新鮮だと思っていただけたためか、私のように外国人でまだ経験の浅い者でも、展示会等でも今までの伝統の枠を超えて受け入れてもらえて、活動の場を広げられるチャンスをいただけたのは本当に幸運なことだと思っています。
南仏でもブティに興味を持ってくださる在留邦人の方も増えてきて、その方達に現地で体験会をする機会も増えてきましたが、これからも、身近なところから草の根の活動でブティの魅力を伝えていきたいです。
